虫歯について

虫歯は虫歯菌が産生した酸や飲食物に含まれるにより歯が溶けた状態のことを言います。虫歯が多い患者さん方は「私は歯が弱いから」とおっしゃることがよくありますが、歯の質というよりはむしろ食生活に問題がある方が目立ちます。毎日間食をしていたり、何か飲食しながら仕事をしていたり、強酸性の炭酸飲料・スポーツドリンク・砂糖入り缶コーヒー・あめなどを好む方は短期間で虫歯が急激に進行します。一日の中で飲食の回数が多い、飲食している時間が長い方は虫歯が多発します。歯の表面にあるエナメル質には生きた細胞は無いため、酸で歯が溶けてしまうと自分で回復する能力はありません。例外的に極初期の微細な脱灰程度のものであれば再石灰化を期待できる場合はありますが、穴が開く程になってしまうと再石灰化でも自然に修復されることはありません。そのために虫歯の治療は、酸によって変性してしまった部分を削り取り、人工物を詰める処置をしなければならないのです。むし歯はその進行の程度によりCO-C4に分類されます。進行程度によって治療方法・治療期間・その歯の寿命も変わります。

CO(Caries for Observationの略で日本語で言うと要観察歯です)

歯の表面が白濁したりして放っておけば近い将来虫歯になる可能性がある歯を言います。処置としてはまず、虫歯になった一番の原因である歯ブラシの仕方・食生活について指導をします。このような状態にフッ素を塗るのも効果的です。歯ブラシ・食生活が改善されれば白濁した部分が元の状態に戻ることが期待できますが長い期間を要します。白濁した原因が今までと変わらなければ確実に虫歯になってしまいます。

C1

エナメル質のみに限局した虫歯を言います。エナメル質には感覚がありませんので、この状態では痛みなどの自覚症状は全く感じませんがむし歯は始まっています。処置としては程度にもよりますが、歯ブラシ指導と経過観察、レジン充填(歯と同じ色の詰め物)などです。範囲が小さければ麻酔をしなくても痛みを感じないで治療を受けることが可能な状態です。

C2

象牙質まで進行した虫歯を言います。冷たいものや甘いものがしみるなどの症状が出てくる場合がありますが、自覚症状が全く出ない場合もあります。自覚症状が出ない場合は厄介で、以下に述べるC3まで進行してから自覚する場合があります。処置としては程度にもよりますが、歯ブラシ指導、レジン充填(歯と同じ色の詰め物)、金属を詰める、金属を被せるなどです。また、虫歯が進行して歯が割れそうになっているところは削らなくてはならないので患者さんが思っている以上に歯を削る場合があります。

C3

歯の神経(歯髄)まで虫歯が達した状態を言います。冷たいもの・温かいものがしみるようになり、猛烈な痛みが出る場合があります。まれにここまでの虫歯になっても自覚症状が出ない方もいらっしゃいます。歯の神経は血流が非常に悪い組織のため、一端細菌に感染して変性してしまうと自然治癒することはほとんどありません。麻酔をして感染した歯の神経を取ることとなりますが歯を抜くわけではありません。猛烈な痛みにおそわれているときは麻酔が効かない場合があります。神経を取った後は根の中の細菌を殺すための治療が必要となります。程度にもよりますが、1~5回程度の通院が必要となります。さらに根の治療が終わった後は大きく穴が開いたところを治す治療になりますのでさらに通院が必要となります。これも程度によりますが、レジン充填、土台を入れて被せるなどになります。また一度神経を失ってしまった歯は強度が著しく低下し、もろくなります。固いものを食べた際に歯根ごと割れて抜歯になる場合もありますので注意が必要です。

C4

歯のほとんどが崩壊してしまった状態を言います。歯の神経は完全に死んでしまうため痛みは感じなくなる場合がありますが、根の先に膿がたまって骨の中に広がっていく段階です。骨の中に膿がたまっていっても進行がゆっくりの場合は痛みを感じることは少ないのですが、自然に治ることはないので化膿はどんどん広がっていきます。長期間このような状態を放っておくと根の先に嚢胞という膿の袋を作ります。それでもまだ痛みを感じることは少ないのですが、風邪を引いたり、体力が低下した場合に顔が腫れたり、猛烈な痛みにおそわれたり大変な症状が出ることがあります。ここまでなってしまうと歯を残して治療しても回復が期待できずに悪化の一途をたどる場合もあり、そのような場合は抜歯せざるを得なくなります。

ここまでの状態になってしまうと様々な症状が出てくるので一概には言えませんが、処置としてはまず、虫歯を削ってどの程度の範囲の歯が残るかで治療が可能かどうかに分かれます。残る歯の部分が少なく、被せを維持するのに十分な強度が得られない場合、化膿している範囲が大きく、回復の見込みがない場合などは、残念ながら抜歯となります。抜歯しないで治療を行う場合は程度によりますが、治療期間がかなり長期化することとなります。

以上のように虫歯の治療といってもその進行度合いによって治療方法・治療期間が大きく変わってきます。もちろん、治療費も大きく変わります。痛くなってから治療を始めると、通院期間だけでもかなり長くなります。もし、ご自分のお口の中に虫歯があることに気づいているのならば、痛くなってからと考えずに、早めに受診した方が色々な意味で負担は少ないと思います。